宮島工芸製作所

歴史と伝統の宮島

瀬戸内海に浮かぶ日本三景の一つ、「宮島」は世界文化遺産に登録された厳島神社や名産品の牡蠣や穴子めしなどグルメも楽しめる歴史と伝統が息づく観光スポットとして有名です。その宮島のなかでも代表的な伝統工芸品として全国的に広く知られているのが「しゃくし(杓子)・しゃもじ(杓文字)」です。宮島のシンボルともなっている世界一大きな杓子は圧巻です。この世界一大きな杓子は宮島細工を後生に残すために宮島細工である宮島杓子、宮島彫り、宮島ロクロ細工等の職人さんが協同して長さ7.7メートル、最大幅2.7メートル、重さ2.5トンもあり、2年10か月の歳月を得て製作されたもの。厳島神社の文化世界遺産登録を機に展示されるようになり訪れる多くの人々の目を楽しませてくれています。

宮島杓子の歴史

今から約220年以上前に神泉寺の修行僧であった誓真(せいしん)という人物が、現在の宮島のしゃもじの原型となった「宮島杓子(みやじましゃくし)」を考案したとされています。僧 誓真(せいしん)は広島で商人をしていましたが、世の無常を感じた出来事をきっかけに僧侶となったと言われています。宮島には当時から多くの人々が訪れる場所となっていましたが宮島は神の宿る島であるため耕作が禁止されていたため、僧 誓真(せいしん)は宮島に従事する人々が空いた時間にできることは無いかと思い、宮島の神様の一柱「弁天様(弁財天)」が持っている楽器の「琵琶(びわ)」の形と美しい線にヒントを得て、杓子を考案し、御山の神木を使って作ることを島の人々に教えたことが宮島杓子誕生のはじまりと言われています。「この神木の杓子で御飯をいただけば、ご神徳を蒙り福運をまねく」という、僧 誓真(せいしん)の高徳とともに、宮島杓子は広く知られるようになりました。僧 誓真(せいしん)は宮島の発展に貢献した人として知られており、現在ではその伝統を生かして、各種の調理杓子・お玉杓子などが考察されています。

縁起のいい宮島杓子

しゃもじはご飯をよそうだけの実用的な機能の他にも、「縁起物」でもあることをご存知でしょうか。高校野球の甲子園で広島県代表チームの応援に「しゃもじ」が使われているのは今ではお馴染みとなっています。それは、しゃもじの「飯(めし)取る(とる)」という動作から、「敵をめしとる」「幸せをめしとる」という言葉に掛けているからです。勝運をかけた必勝祈願だけでなく、商売繁盛、家内安全などの願掛けをして奉納したり、お土産にしたりと宮島の名物となっています。また、「宮島しゃもじ」の起源は七福神の一柱でもある弁財天が持っている楽器の琵琶(びわ)に発想を得ていることをご紹介しました。弁財天は、もともと川の女神で、川の流れる音とその様子の連想から弁舌、音楽などの芸術に加えて、財運や勝運、招福も併せもった幅広いご利益がある縁起の良い神様と言われています。宮島の神様の一柱である弁財天から起源を得た「宮島しゃもじ」はとても縁起の良いものです。

宮島杓子の特徴

杓子(しゃくし)
杓文字(しゃもじ)

「木製杓文字」のことを板前用語では「宮島」と呼んでいるくらい高名な「宮島しゃもじ」ですが、上述のなかで出てくる「杓子(しゃくし)」と「杓文字(しゃもじ)」の違いをまずはご紹介したいと思います。
「杓子」は飯または汁などの食物をすくいとる道具。「杓文字」は特に、飯をよそう道具。とされています。余談ですが、宮島では一般的な「杓文字」のことも「杓子」と呼んでいるそう。

「形を切り出す」 画像提供元:株式会社宮島工芸製作所

宮島発祥の宮島杓子の伝統を今に受け継ぎ、現在も木製杓子を手づくりでつくり続ける「株式会社宮島工芸製作所」さんをご紹介します。厳島神社に程近い、広島県廿日市市宮島町の地で明治中頃から木製杓子を製造しています。杓子の原材料には、主に広島県産のヤマザクラを中心に使用しています。木のまちとして知られる廿日市市(はつかいちし)は西日本有数の木材集積地があり、同市の材木屋さんから質の良い木材を選別し、輸送費等のコストも抑えることができるため、質とコストの両面から良質な木材を仕入れることができます。ヤマザクラの木質の特徴は、堅く弾力がありキメが細かいので丈夫で長く使うことができ、使えば使うほど木の色合いは赤みを増して味わいが出てきます。こうして良質な木材を丸太で仕入れた後、板状に製材し約3~4か月程乾燥させます。乾燥完了した板状の木材にしゃもじ等の形を書きます。その後、帯鋸盤と呼ばれる木材を切る鋸(のこぎり)で荒くカットします。

「粗削り」 画像提供元:株式会社宮島工芸製作所

次に、自社製造の面取り盤用の専用冶具(固定しながら削る装置)を使って、まずは上から見た形から整えていき、表面→背面と更に形を整えていきます。ここまでの工程で大体の形が出来上がります。その後、荒削りの研磨→仕上げの研磨を行い、検品・修正の工程を経て宮島杓子が出来上がります。

「研磨する」 画像提供元:株式会社宮島工芸製作所

杓子の形が美しいだけでなく、持った時の手に触れる優しい感覚はとても心地が良い。木の質だけでなく、一つ一つ丁寧に研磨され愛情を持って作られたのだと感じることができ、長く使いたい!と思わせてくれる商品です。使っていくことで自分の手に馴染み、使った月日と共に深みを感じられる調理道具は宮島工芸製作所さんがつくり出す魅力の一つだと思います。

作り手みなさまのこと

「看板」 画像提供元:株式会社宮島工芸製作所
宮島工芸製作所さんはご家族を中心に、約40年勤めている職人さんや、入社して1年程の方など、宮島杓子づくりに従事されている8名の会社です。全て職人さんの手作りのため、一日にできる杓子は限られています。作業は完全分業制としており、一人一人の作業スピードや技術が大切になってきます。その為、作業工程を担当制にすることで各々の技術が向上し、おのずと商品の品質向上にも繋げることができる為、専門性を持たせているそうです。最終工程の磨きや調整、検品はベテランの職人さんが行い、宮島杓子のブランドを守り続けています。宮島工芸製作所さんでは、丈夫で機能的な、気負わず使い込んでいける道具を目標に、日々の商品作りに取り組んでおられます。また、使用用途に合わせた木材を選定するところから、今の生活に合う商品を追求し続け、長い間培ってきた木工技術と思考を生かして一般家庭の台所で使いやすいもの・長く使えるものを作られています。
こうしたものづくりに対する愛情が商品に伝わり、それを手に取った私たちがその思いを受けとることができる。宮島工芸製作所の皆様の愛情が一つ一つの杓子に込められ、使い手に届けられる。この先もずっと、技術も愛情も未来に繋げて行けるよう、私たちも微力ながらお伝えしていくことで何かお手伝いが出来ればと思います。
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