空間鋳造
伝統と技術を守りながらも、「守破離(=修行における過程)」の精神で日々ものづくりをされています。「鉄の持つ素材の原点を表現」「空間に程よい緊張感を与える」「日本古来から伝わる、美、素、質を再構築した意匠」の3つを兼備したものづくりを目指されています。
1. この地である理由
水沢鋳物がこの地に根付いたのには理由があります。
南部鉄器には、伝統工芸品に代表する盛岡鉄器と日用品として身近で実用性のある水沢鉄器の2つがあります。この土地には古くから砂鉄や鉄鉱石、良質な砂、粘土、燃料となる木炭など鋳造において必要な資源が豊富にありました。また船での運搬に容易な北上川に恵まれたこともあり、南部鉄器が自然と栄える地となっていきます。
もともと生活に根付いた鍋や農耕具などを作っていた水沢では、生産性を重視して、砂で作った型に鉄を流し込んで作る「生型」という製法が取り入れられてきました。豊富な資源の土地には、良い作り手が集まり、根付いていくのだと思います。この地では昭和に入って、安定したものづくりを確保するために、型づくりに機械を用いてさらに生産性を上げています。そうすることで、日々の生活で使えるプロダクトとして、新たな鉄器の地位を確立していると言います。
2. 型づくりから
まず生型(砂型)づくりです。鉄急須を作るためには生型が必要です。その生型は、”マスターピース”というアルミの型(機械導入しなければ、この”マスターピース”を作るだけでも2~3ヶ月は要します)を用いて、砂と水と凝固剤を機械でプレス加工することで作ります。それは、あとで流し込む湯(熱い鉄の液)が固まったときに取り出し易いよう、上下に分かれていて、さらに”中子”と呼ばれるお茶を入れるときのお湯を入れる空間を作るための型も別に用意します。この生型は一度使ったら都度壊して、固まった鋳物を取り出していきます。
3. 熱い鉄を流し込む
湯(約1,500℃に溶かされた鉄)を、生型内にできた空洞部分が一杯になるまで注ぎ込みます。固まった頃に生型を壊して中の仕上がった鋳物を取り出し、まだ付いている余分な型の砂、バリなどを丁寧取って形を整えていきます。急須の内部は防錆処理としてガラスと同じ性質のホーローを塗布し、600〜700℃の高温で焼成します。そして最後に表面に焼き付け塗装で色付けをして、つるをつけて仕上がります。ここまでで十数もの工程が施されて出来上がっていきます。人の手によって作り出されることは言うまでもなく、デザインと機能性に需要と供給を兼ね備えたクラフトと言える鉄急須です。
作り手 岩清水久生さんのこと
全ての画像提供元:空間鋳造
水沢鋳物工業協同組合、及び(社)日本クラフトデザイン協会所属。
1998年にInternationale Frankfurter Messe ’98 Ambiente(ドイツ)にてDESIGN PLUS 賞を受賞。
2000年に「ニューヨーク近代美術館MOMA SHOP」(アメリカ・ニューヨーク)に選定され、以降、フランス、ドイツを含む国内外で数多くの展示会に出展し、2003年に日本クラフト展にて優秀賞を受賞。
2004年には工芸都市高岡2004クラフトコンペにてグランプリを受賞するなど、多数の受賞歴を誇る。
2016年には第266代ローマ法王(フランシスコ)への献上品製作も手がけられました。