サンクラフト(MOKA)

刃物のまち。岐阜県関市

「本社・工場 上空から」 画像提供元:株式会社サンクラフト
岐阜県関市は刃物産業が有名な土地で、ドイツのゾーリンゲン、イギリスのシェフィールドと並び世界三大刃物産地の一つとなっています。市内中心部を流れる清流 長良川の周りには自然豊かな緑があり、土も良質で、隣まちの美濃市では陶磁器の産地で有名な美濃焼があります。関市には刃物づくりで必要な「水」、「土」の資源が揃っていました。関市が刃物のまちとして発展した歴史は古く、鎌倉時代に「良質な水と土」を求めて京都から日本刀をつくる職人 刀匠(刀鍛冶)が移り住んだことから刃物産業が栄えたそうです。特に関の刃物は「折れず、曲がらず、よく切れる」と言われています。

切れ味だけじゃない、関の刃物

「職人による刃付け工程」 画像提供元:株式会社サンクラフト

関の刃物の原点は、刀をつくっていた時代に遡ります。刀づくりにおける刃付けの技術が今に受け継がれ、その技術が包丁づくりに応用され、包丁の役割で最も重要な「切れ味」を生み出しています。大手刃物メーカーをはじめ、関市には多くの刃物メーカーさんが存在します。今回ご紹介するのは関市で70年以上の歴史を持つ「株式会社サンクラフト」さんのオールステンレス包丁をご紹介します。オールステンレスの包丁はデザインの美しさだけでなく、刃身とハンドルのつなぎ目が分からないように溶接する技術も素晴らしいのです。刀身は切れ味が良く、長切れし、錆びにくいモリブデンバナジウムステンレス鋼を採用しており、ハンドルは耐食性の高い18-8ステンレスを採用しています。異なる性質の金属を溶接でつなぎ合わせ、溶接部分は熟練した職人さんが1本1本丁寧に研磨しています。同じステンレスでも硬質ステンレスと軟質ステンレスを溶接すると「溶接割れ」と言う現象がおきてしまいますが、サンクラフトさんでは「ひと工程」増やすことで「溶接割れ」が起きないようにしています。今まで受け継がれてきた包丁づくりの全ての伝統技術が集まって、包丁が出来上がります。

デザイナーの想い

オールステンレス包丁「MOKA」は国際的な工業デザイナー川上元美さんと株式会社サンクラフトのコラボから生まれた包丁です。川上元美さんは東京藝術大学大学院の修士課程を終了後、ミラノにあるアンジェロ・マンジャロッティ建築事務所に勤務し、1971年に川上デザインルームを設立されました。作品は「器」「家具」「ラケット」「橋(鶴見つばさ橋)」など数多く、現在は日本デザイン振興会の会長も勤められています。川上元美さんは「器」などはデザインされた事はありましたが、キッチン用品のデザインは初めてだったので、実際に台所に立ち、包丁で色々な食材を切りながらデザインを進めてくれたそうです。2000年頃から食器洗い乾燥機の普及が高まっており、包丁も食洗機対応のものが求められていました。それを受けるかたちで、オールステンレス包丁を開発するきっかけとなりました。オールステンレスにすることで、ハンドルとのつなぎ目が無くなり、清潔かつ丈夫で扱いやすいという、高いクオリティーを実現することができました。また、デザインは広く受け入られるようにシンプルで美しく、特に包丁を持った時のバランスと、ハンドルの握り具合の使用感にこだわっています。「MOKA」は川上元美(MOTOMI KAWAKAMI)さんのイニシャルから名づけられています。2008年度グッドデザイン・中小企業庁長官賞を受賞しました。

MOKAシリーズ

岐阜県関市でつくられたオールステンレス包丁。熟練の職人さんが一本一本丁寧に刃付けを行っています。刀身は錆びにくく、より切れ味が長く続く「モリブデンバナジウムステンレス鋼」を使用しています。ハンドルには錆びにくい材質である「18-8ステンレス」を使用しています。とても切れ味が良く、カボチャなど硬い食材でも包丁の刃の入りが良く、トマトなど軟らかい食材も潰れることなく刃がスッと入ります。食材を切った時の断面がみずみずしいのは切れ味の良い証拠です。また、ハンドルは握りやすい設計になっており、表面にはスリットが入っているので濡れた手でもすべりにくくなっており、安心して包丁を扱えます。
そしてハンドルは空洞になっているので軽くなっており、刃身とハンドルのバランスも良く、使っていても疲れを感じにくいのもMOKAのこだわりを感じます。刃身とハンドルが一体構造となっていてつなぎ目が無い為、汚れが間に溜まる心配もなく、清潔に保つことができます。毎日使える包丁として末永く使っていただけます。

作り手みなさまのこと

「岐阜県関市 本社・工場」 画像提供元:株式会社サンクラフト
「株式会社サンクラフト」さんは1948年に岐阜県関市で創業され、24,000平米の広大な敷地に自社工場を構え、70年以上続く歴史ある会社です。包丁だけでなく、キッチンツールや調理小物など数多くの商品を開発・製造を行っています。企業理念である“楽しい豊かな生活文化をリッチな道具で提供しよう”のもと、社員の方が一丸となり“新しいもの、新しいこと”に絶えず挑戦されています。また、関の刃物の技術を支える職人さんが今も伝統技術を受け継ぎ守っていくために、新しい職人の育成に力を入れおられます。オートメーション化され品質向上された工程もありますが、包丁をつくるためには多くの工程があり、その工程ごとに担当する職人さんがいます。例えば「プレス工程」では一枚の金属板から包丁の形に打ち抜く作業がありますが、金属板を無駄なく効率よく打ち抜くことでコストカットでお客様にできる限りお求めやすい価格でご提供できるよう日々努力をされています。次に「刃付け工程」では何段階もの砥石を用いて職人さんの手で一本一本、刃を出して(付けて)行きます。その後仕上げの作業となる研磨工程となります。これは「羽布(ばふ)」と呼ばれ、布が高速で回転しているところに絶妙な力の入れ具合でオールステンレスハンドルも木柄のハンドルも磨きをかけていきます。サンクラフトさんの高い品質は、検品の方法に表れています。
岐阜県関市の刃物産業は分業制で成り立っており、数工程だけは外注先で加工をしています。不良品を出さないために工程間の検品は徹底的に行っています。特にMOKAは目に見えないキズを見つけるために「探傷剤(たんしょうざい)」と言う薬品を使って傷を見つける作業を全て商品において検品をしています。また切れ味のチェックを一本一本ウレタンを切って行います。この検品作業で少しでも切れ味に違和感を感じたものは再度研ぎ直しをして切れ味に自信を持ってお届けできるものしか梱包しないという品質管理の徹底ぶりが伺えます。
刃物づくりの伝統技術を今に受け継ぎながら、暮らしを楽しくするキッチン用品を開発されている柔軟な姿は、これから先も使い手のことを思いながら今以上に商品の品質を守り、伝統技術を活かした新しい商品が生み出されていくことと思います。
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