有限会社姫野作.
1. アルミ板から鍋へ
まず必要なサイズに切り出したアルミ板を、木槌で鍋の底から叩き形づくり、次に側面を底から見て80度の角度になるまで立ち上げていきます。カンカンカンと一定のリズムで木槌の音が工房に鳴り響きます。少しずつ少しずつアルミ板が伸びることで、形を作り出し、硬化して硬くなりながら鍋へと変貌を遂げていきます。真冬でも汗だくになるほどの体力仕事だとおっしゃいます。また驚くことに、この音の微妙な変化を聞き分けながら、アルミが締まってきているかを確認しつつ、次の作業に進んでいきます。これこそ、長年の経験でしか成し得ない五感で感じながらのものづくりだと思います。
2. 美しい槌目づくり
鍋の形ができたら、鍋肌に仕上げの綺麗な槌目を金槌でつけていきます。形づくりで使用した木槌は同じところを何度叩いても大丈夫なのに対し、金槌は一度きり。一発で決めなければいけないので、より神経を使う作業になります。これにより、木槌の傷が消え、さらに締めて硬く丈夫にしていきます。約1cm幅に4周もの細かい槌目で叩き締めます。鍋の底面は、中心から円を描くように等間隔に叩きます。美しい鎚目にするために同じ場所は絶対に叩かず、金槌をどこに振り下ろすのか、それは職人の勘だけが頼り。揃った美しい槌目を作れるようになるまでには、10年以上はかかるそう。長年培った職人の勘と卓越した技術が、美しく揃った鎚目を生み出します。
3. 叩き続ける…
特に底面と側面の角のカーブ部分は、強度を上げるために1回ではなく念入りに丁寧に丁寧に叩いて仕上げます。 1つの鍋を作り出すのに、400〜500回叩いて仕上げていきます。これは職人による手打ちでしか、なし得ない技術のひとつです。今回行平鍋の取手は「本格取手」と言う、大きな1枚のアルミ板から手作業で切り分けて、曲げ、溶接して作るといった手間を惜しまず、昔ながらの手法で丁寧に手作りされた特別なものになります。
いかに均等に綺麗に打つか、道具や座り方、力の入れ方などを様々な角度から追求を重ね、今の形に行きついたと言います。このものづくりへの探求はこれからも続き、技術を守りつつ使い手が喜んでくれる手打ち鍋を作り続けていかれるのだと思います。
作り手 姫野寿一さんのこと
全ての画像提供元:有限会社姫野作.